73.続・異変とおっさん―5
廊下を歩くグルゥ。
みしみしと、木の床が軋む音がいやに大きい。
「キッ――」
もう一度、その名を呼ぼうとしたが、何か猛烈に嫌な予感がして、グルゥはそれを喉から出る直前で飲み込んだ。
廊下の奥まで辿り着くが、寝室に入るための襖は、ぴったりと閉められている。
(頼む……無事で居てくれよ)
そう思ったグルゥの願いは――むざむざと打ち砕かれることになる。
「これ、は……っ!?」
襖を開けたグルゥの目に飛び込んできたのは、折り重なるように倒れた、キット、ミノン、ブランの三人。
そして、その上に悠々と腰を掛けている長髪の鬼――リンメイだった。
リンメイが手にしている刀の先端からは、ぴと、ぴと、と絶えず赤い液体が滴り落ちている。
「どういう、ことだ」
「傷つけるつもりはなかったのだがね。想像以上の剣の使い手だったので、私もつい本気を出してしまったよ。だが、まあ、安心してくれ。命までは取っていない」
「そうか」
リンメイの言葉に、グルゥは深く頷いた。
「ならば貴様は危惧しろ……ッ! 命の保証はせんぞッ!!」
自分が守るべき、三人の仲間達。
その全員が既に傷つけられ、倒されていることに、グルゥの『憤怒』は一瞬で頂点に達する。
「それは、どういう意味かな?」
「分からないなら、その身に直接教え込んでやる……!! 私は、怒っているんだァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
挑発的な言葉を返してきたリンメイに対し、グルゥは魔獣化しながら、猛然と駆け出していた。




