73.続・異変とおっさん―3
剣を振るったのは、ブランだった。
前触れの無い攻撃だが、長髪の鬼はしっかりと刀身で一撃を受けてみせる。
「おやおや、これは……また一段と、複雑な“気”が現れたな」
その時、キットはようやく気がついた。
長髪の鬼の目は白く濁っており、恐らくは目が見えていないのだということに。
(コイツの言う“気”っていうのは……オレで言う“匂い”と同じ感覚ってわけか)
視覚に頼らずとも、空間を認識できる能力。
宵闇に紛れて襲撃してきたのはかなり厄介だと、今さらになってキットは気付くことになる。
だが、ブランはそのことに気付く様子も無い。
「やめなさい。父上の仲間に手を出そうというのなら、このブラン・クランシェがあなたを許さない」
剣を手にしたブランは、意気揚々と長髪の鬼に対峙する。
元の人格は未だ忘れたままであるブランだが、元からの正義感の強さが、一方的にキットがやられている場面を見過ごさなかった。
長髪の鬼は、一度刀の先を下げて右手で髪の先端をいじる。
「やれやれ、名乗りを上げられては……こちらも、アマツの武士の作法に乗っ取るしかないようだな」
そう言ってから、長髪の鬼は再度刀を構え、その先端をブランの正面に突きつけた。
「私の名はリンメイ。テンザン、いや、このアマツを護るため……“鬼灯”と共に貴様を迎え撃とう」
一触即発の空気が流れる。
先に仕掛けたのは、ブランだった。




