72.異変とおっさん―9
(これはいったい、どういう……ッ!?)
風圧による切り傷なのだろうか。
だが、それにしてはいやにはっきりと、体が斬られる感触が残っていた。
「“刀気”だよ」
「っ!?」
カエデの放った聞き慣れない単語に、思わず耳を傾けるグルゥ。
「アマツの武士は、自身の持つ気を刀に載せて操ることが出来るんだ。その技を使うために、それぞれが特殊な製法で作られた、専用の刀を持っているほど」
「闘気使いの“赤鬼”たぁ、俺ぁのことだァッ! 俺ぁの“鬼殺”は、どんな屈強な鬼も真っ二つに出来る最強の刀だでッ!!」
シュテンが力任せに“鬼殺”を振るう度に、地面が抉れ、グルゥの二の腕や太ももに鋭い斬撃の傷がついていく。
「ぐうっ……!?」
「おらおら、どうしたぁッ! このまま、おめぇの胴体も一撃でズンバラリンにしてやっどッ!!」
シュテンの言葉通り、“鬼殺”による斬撃はカエデの『焔殺剣』とは比べ物にならないほどの破壊力を秘めていた。
先程と同じように、一度受け止めてから、というようなやり方は通用しそうにない。
「仕方ない、かくなる上は……っ!!」
逃げるのを止め、真っ向からシュテンに立ち向かう覚悟を決めたグルゥ。
待ってましたと言わんばかりに、シュテンは鼻を大きく鳴らし、顔をドス赤く紅潮させた。
「恨みは無いが……許せよ御仁ッ!!」
「はッ!! 男同士の闘いに、余計な気遣いは無用だでッ!!」
グルゥは右腕に溜め込んだ力を、力任せに叩き付けた。




