72.異変とおっさん―7
「ま、待て。なんだって……? 息子ということは、クリク君に何かあったのか?」
「白々しいことを言いおってッ!! 俺ぁのガキはな、全身を斬り裂かれ、死に体になって家まで帰って来たんだぞッ!!」
「いや、それは違うっ! 私は、お前と一緒に酒蔵に行ったじゃないかっ。私がそんなことをする時間なんて――」
「だったら、お前ンとこのガキがやったんだろッ!! 魔人が、魔人がと、俺ぁのガキはうわ言のように繰り返してたぞッ!!」
まさかキットが、と一瞬グルゥは考えたが、すぐにそんなはずはないと首を振って掻き消した。
キットはむやみやたらに他人を傷つけるような子ではない。
それは十分に分かっていることだったが、
(まさか、ブランが? ……いや、だったら魔人が、なんて言い方はしないはずだ)
次に浮かんできた考えも、グルゥは自ら否定した。
仲間を疑うことなんてしたくない。
だが、まずは何があったのかを確かめないと、シュテンの疑念を払拭しようもない。
(……ああ、そうか)
先程とはまったく逆の立場に、グルゥは自嘲気味に心の中で呟いた。
(もしかしたら、マリモもこんな気持ちだったのかもしれないな。身に覚えのないことで、疑われる気持ち)
「何を黙り込んでおるッ!! 俺ぁがこの場で成敗してやる……覚悟せぃッ!!」
身の丈ほどもある大太刀を軽々と振り回し、怒り狂うシュテンは迫ってくる。
この状態のシュテンと対話をすることは不可能そうだ。
(まずはキット達と合流し、事の次第を確かめなければ)
そう考えるグルゥだったが、それには突進してくるシュテンを、どうにかして足止めしなければならなかった。




