72.異変とおっさん―2
グルゥは衝撃を受けていた。
“黒き炎”を吸収した際に流れ込んできた、カエデの、あまりにも悲しい記憶。
好きだった人を目の前で殺されて――真っ直ぐな心を保てるはずがない。
「同じ、だ……」
「なんだよ、人を憐れむような目で見やがって」
「お前と私は、同じなんだ。同じ『憤怒』の力を元に、ここまで戦って生き抜いてきた」
同情するグルゥを、カエデは冷めた目で睨みつけていた。
「違う……全然違うよ」
カエデはその言葉を、誰にも聞こえないほどの小ささで、ぼそりと呟いた。
「それと、マリモのことだが」
そしてもう一つ、グルゥには確かめなければならないことがあった。
もしも、このカエデの記憶が真実だというのであれば、マリモがカエデにしたことは――
「おいグルゥ、後ろっ!!」
馬乗りにされたままのカエデが、慌てた様子で叫んだ。
ハッと振り返るグルゥ。
いつの間にか迫っていたマリモが、背後で両手を広げている。
「くっ……!?」
とっさに身を翻して避けようとしたグルゥだが、マリモの手からは逃れられなかった。
マリモは大きく広げた腕を、しっかりとグルゥの体に巻き付けると、
「良かった、グルゥさんっ!」
その顔を、グルゥの肩に埋める。
「…………は?」
唖然とするグルゥの顔を、マリモは泣きべそをかきながら上目遣いに見上げた。




