72.異変とおっさん―1
何とかなると、思っていた。
突然、見知らぬ異世界に転移して、勇者同士の戦いを強制され、戦わなければ死んでしまうという。
それでも、初めて会った白角の生えた鬼の人々はみんな優しかったし、シノカミと一緒であれば、どうにか生き抜けると思っていた。
それだけ、シノカミユウの穏やかな微笑みにには、カエデを安心させてくれる何かがあったのだ。
だが、それでも――フォルを手に入れなければ死んでしまうとルキから教えられ、カエデとシノカミは、フォルが多くあるというイルスフィアへと降り立った。
最悪、イルスフィアの魔物を狩り続ければ、微量ながらもフォルを入手することが出来る。
チートスキル『焔殺剣』のフォルを奪う力があれば、この異世界でも二人で生き抜くことが出来ると。
そう、思っていたのに。
「カエデ、君は逃げろっ!!」
耳に残って離れない、シノカミが最期に遺した言葉。
「チートスキルを持たない僕よりも、君はきっと生き抜くことが出来るから――」
「うるせぇなぁ、賞金首の異世界勇者さんよォ」
「なんかでもコイツ、手配書の似顔絵と雰囲気違くないッスか?」
「細けぇことはいいんだよ。それならそれで、コイツをブッ殺して次の異世界勇者を探すだけだ」
魔人の子供を浚いに来るという、異世界勇者。
その存在は、既にイルスフィアに住む魔人らにとって忌むべき存在となっており、賞金までもが賭けられていた。
「ゴメン、ユウっ」
最後に振り返った瞬間の光景は、未だに悪夢としてカエデの心を縛り続けている。
複数の魔人達に踏みつけられたシノカミの胸に、何度も、何度も刃が振り下ろされていたあの光景。
「私が、私が絶対に復讐をするから――」




