1.孤児とおっさん―6
グルゥは考えていた。
自分の腕の中で暴れて逃げようとする子供に対して、自分に何が出来るか、どうすればいいのかを。
考えた、ずっと、考えていたが。
娘すら守れなかった自分に、何も出来ることはないと、いくら考えてもそれ以上の答えは出て来なかった。
「いい加減、離せって……何がしたいんだよ、おっさん」
「すまない。本当にすまない。きっと君は、今までずっと心無い大人に傷つけられてきたのだろう。だが、そんな君の心を救えるような言葉を、何一つ持ち合わせていない自分を、私は堪らなく悔しく思うのだ」
そう言って、グルゥはただひたすら、キットの華奢な体を抱き締め続けた。
こうすることで少しでも自分の気持ちが伝わればいいと、祈るような気持ちで抱き締め続けたのだ。
「……う」
変化が起きたのはその時だ。
ずっと暴れていたキットが大人しくなったかと思うと、肩を震わせ、呻くような小さな声を漏らしてる。
また力加減を間違えてしまったかと、グルゥが腕を離そうとした、次の瞬間だった。
「うわあああああああああああああああああんっ!!」
キットは泣いていた。
大きな声で、産声を上げる赤子のように、感情を爆発させながら。
「わあああああああっ、わあああああああああああああああんっ!!」
泣きじゃくり胸に縋り付いてくるキットの頭を、グルゥはそっと撫でてやる。
「少し……聞かせてくれないか。君の境遇と、君が、これから、どうしたいのかを」
キットの体を離したグルゥだったが、今度はキットが、グルゥの大きな体にしがみついてなかなか離さない番だった。