71.続々・鬼とおっさん―3
シュテンはグルゥの姿を見つけると、厳つい顔に似合わずパッと人懐っこい笑顔を浮かべた。
「おおう!? グルゥさん!! こんなところにおったんかぁ!? 今夜も共に酒を酌み交わそうと、せっかく御殿で待っておったのに! 人がションベン行ってる間に帰るたぁ、薄情なヤツめと思っとんだ!!」
「それは、私の責任ではないような気がするが……。というか、クリク君は、シュテンさんの息子さんだったのか?」
それを認めて頷くクリクの顔は、嫌そうに引き攣っていた。
対して、クリクを見るシュテンは、目尻がとろんと垂れ下がって非常に溺愛しているようである。
「ったく、すいやせんなぁ、グルゥさん! 俺ぁんとこのバカ息子が、グルゥさんのお嬢さんが気に入ったからといって色気出して迷惑かけやがって!」
「い、いや、私は迷惑だなんてそんな」
「そ、そそそそそそうだぞ父ちゃん!! オイラは一緒にお菓子を食べてただけだし、気に入ってなんてねぇ! それにキットちゃんはグルゥさんのことが――」
誤った情報が流布されるよりも早く、グルゥはクリクの口の中に大量の煎餅を押し込んだ。
「はっはっは。そうだぞ、クリク君。君はまだ若いんだから、いっぱい食べて大きくならなくっちゃあ」
「ところでグルゥさん、今日はどうだい? お互いのチビの話を肴に、今が旬の地酒でも一杯」
「いやいや、その!! 我々もまだ本調子ではないので、少しゆっくり休みたいのだがっ!!」
「そういうことなら、寝酒にちょうどいい一杯もあるんだよ。一度、ウチの酒蔵ぁでも見てくかい?」
カオスな状況だった。
早くカエデのことを何とかしなければいけないのに、時間だけが無為に過ぎていく。




