7.対決とおっさん―9
何度も何度も鎖を引っ張られ、その度に首が絞まり、意識が飛びそうになる。
(私は、こんな少年に勝つことすら出来ないのか)
いくら正体不明の術を使われているとはいえ、その事実はグルゥの心を深く打ちのめしていた。
(こんな、ところで……)
薄れゆく意識の中、頭の中に浮かぶのは愛娘、ノニムの顔だ。
連れ去られたノニムは『アガスフィア』でどんな目に遭っているのだろうと思うと、悔しさで涙が溢れそうになる。
「ケッ……雑魚がいきがりやがって。おとなしく言うことを聞けば、命までは取らないでやったのにな」
グルゥの体から抵抗する力が失われていくのを感じ、アキトはそう毒づいた。
こうなったら、アキトの言うことを聞くしかないかと……グルゥはそう、覚悟する。
「…………わ――」
「お? やっと俺の犬になる気になったか?」
妻を殺し、娘を連れ去った憎むべき相手の言いなりになるという屈辱。
これ以上ないくらいの怒りが、一度は静まりかけたグルゥの血を、熱く沸騰させていた。
「私は、怒っているんだ……ッ!!」
「じゃあ、死ねよ。遊べない玩具に興味はねぇ」
鎖を引き上げ、吊るしたグルゥの首に剣をあてがおうとするアキト。
グルゥはその瞬間――アキトが最も接近する瞬間を、限界まで待っていた。
喉の奥から込み上げた血を、口の中に溜め込んでいたグルゥ。
勢いをつけ吐き出した血の塊は、鎖を持つアキトの手に直にかかった。
「あっつ……ッ!?」
「『サタン』の血は怒りにより百度近くまで沸騰する。どうやら、調べが足りなかったようだな」
鎖を取り落とすアキト。
“活力吸収”の拘束が解けた瞬間に、グルゥの全身の筋肉に血管が浮き出て、その体は変貌を遂げようとしていた。




