70.続・鬼とおっさん―7
「遅い」
一方で、キットはイライラしながら、民家の軒先でグルゥを待っていた。
「父上は何処へ行ったのでしょう?」
「しーらーなーいっ! オレに聞くなってもう!」
旅人が来ることが少ないテンザンには宿屋が無く、グルゥらは一軒の古民家を貸し与えられていた。
始めはキットとミノン、そしてブランの三人で待っていたが、集落の様子が見たいと言って出て行ったミノンはかれこれ一時間以上戻らず、キットはブランと二人きりでグルゥの帰りを待っていた。
(言っちゃ悪いけど……コイツとずっと二人っきりってのはツラいぞ)
幼児退行を起こしたブランは、グルゥが面倒を見ることにより暴れることはなくなったものの、すっかりグルゥに懐いてその話ばかりしていた。
「父上は先祖より代々受け継がれてきたこの地を護っている、素晴らしい方なのです」
おまけに、その記憶はヴラディオのものと混ざっている。
「するとなんだ? お前にとって親父はこの国の王様なのか?」
「何を言っているのです? 当たり前のことでしょう? あなたも、父上に仕えられることを誇りに思うのです」
話はまったく噛み合わず、キットは頭を抱えて地団駄を踏んだ。
「確かに、親父は凄い人だけどっ!」
「でしょう? 私も大きくなったら、父上のように強い王となりこの国を守るのです」
さらに言うと、時折ブランが見せるヴラディオへの尊敬の眼差しが、キットにとっても心苦しいものとなっていた。
(そうか、コイツも、昔は親父のことが本当に好きだったんだな)
それならいっそ、もう二度と正気に戻らない方が幸せなのでは――
キットは一瞬そう思ったが、将来的にグルゥと一緒になった時にブランまでくっついてきそうな気がして、慌てて首を左右に振った。
(やっぱり、元に戻ってもらわなくては!!)




