70.続・鬼とおっさん―5
「人一倍、遠慮しいのお主は特別じゃ。ルキ、と呼び捨てで呼んでよいぞ?」
「い、いや、それは流石に他の民からの視線が怖くないか」
「じゃあルキにゃんで良いぞ?」
「呼べるかっ!! ……ルキ、これでいいか」
ぶっきらぼうに答えるグルゥだったが、いつの間にか、ルキへの恐怖心や警戒心が無くなっていることに気がついた。
もしも狙ってやっていることなら、確かに、シュテンの評価は間違っていないのかもしれないと、グルゥが思う。
「ダメじゃ。もっと初恋の人の名を呼ぶようなテンションでいけ」
(前言撤回。ただの変人だなコイツは)
手のひらの上で転がされっぱなしのグルゥ。
いい加減、会話に疲れてぐったりしてきた。
「それで、ルキ……私をここに呼んだ用は何なんだ。私の仲間には、手負いの者もいる。用件があるなら早くしてくれ」
「ふむ。ようやく、腹を割って話せそうな雰囲気にはなってきたのじゃ。妾の用件は、ただ一つ。“お前の用件を聞くために呼び出した”。それだけじゃ」
「…………なに?」
予想外の答えに、グルゥは思わず押し黙ってしまう。
そもそも、アマツ公国にまで来たのは、マリモに誘われ、アマツであれば協力関係が結べると考えたからだ。
だが、それはあくまでマリモの考えで、ルキが認めてくれるとは限らない。
(手放しで歓迎されているとは……考えない方が良さそうだな)
共に宴などを行い、すっかり認められた気になっていたグルゥだが、改めて襟を正すと、ルキに対し向き直った。




