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70.続・鬼とおっさん―2

 アマツの姫が住むという御殿の中は、床や柱、全てが漆塗りの木材で作られていた。

 名うての職人による手の込んだ建築物であることが、容易に窺い知れる。


 時折、アクセントのように挟まる赤や白の柱が、神秘的で厳かな雰囲気を醸し出していた。


「――だそ? 聞いてんのか? おいっ!」


「わぁっ!?」


 耳元でシュテンに怒鳴られて、グルゥは心臓が飛び出そうなくらいに驚いた。


「なんだぁ、ガチガチに緊張しやがって。お前さん、図体はデカいのに蚤の心臓をしてるのな」


「い、いや、なかなか慣れない雰囲気なので、な」


 グルゥのその答えは――嘘だった。

 グルゥの頭の中では、テンザンに入る直前にカエデが残した言葉が、何度も反芻していたのだ。


『今晩、私は……マリモを呼び出し、殺そうと思う』


 まだ幼さすら残るカエデが、マリモに対しそこまで恨みを持つ理由は何なのか。

 カエデの凶行を止めたいと、グルゥはずっと考えていたが。


(カエデから渡された紙には、今晩の十二時にと、落ち合う場所が書かれていた。謁見を終えてからでも、まだ時間はありそうだ)


 その間に、どうにかカエデに心変わりをさせることは出来ないだろうか。

 グルゥは真剣に考えていたが――ついに、“鬼姫”と呼ばれるアマツの公爵が待つ部屋の前まで到着してしまった。


「姫はこの寝殿の中でお前さんを待っている。いいか、グルゥさん、姫はとても良い御人だとは言ったが……無礼な真似だけは絶対に止めた方が良い……絶対にだっ」


「え? な、なんだ急に――」


「姫よ、客人を連れて参ったぞ! 中に入れてよいか!」


 突然の意味深な発言に戸惑うグルゥだが、シュテンが大声で寝殿の中に呼びかけると、グルゥの目の前の襖がさっと開いていった。

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