+++ある晴れた夏の日―2+++
アキトが引き起こしかけた非常事態は、手近なコンビニに寄ることによって回避出来た。
七人の少年少女は、気を取り直して海に向かう車中のやり取りを楽しんでいる。
「っていうか、マリモ先輩……言わなくていいって、言っただろ」
「そういうわけにもいかないでしょ!? 隣で吐かれたら私が迷惑だしっ。ケータイで小説ばっか読んでるからだよ」
アキトが何を読んでいるのか、マリモはよく知らなかったが、ネットに掲載されている作品を見ていたようである。
「っていうか、お前はなんでゲームばっかしてて酔わないんだよ。才能か。やっぱそれはゲームの才能なのか」
ワゴン車の最後尾、左に座っているユズにアキトは話しかけた。
だが、ユズは何も答えようとはせずに、ひたすらにスマートフォンのゲームに没頭している。
「お前ら、せっかく海に来たんだから、ちょっとはアウトドアを楽しもうという気概を見せてくれよ」
「そうそう、にぃにの言う通りっ! こーんな良い景色なんだから、見ないのは損だよぉ」
一列前の席に並んで座っているゲンロクとミクの兄妹コンビが、アキトとユズのインドアっぷりを注意する。
「損……!? た、確かに、せっかく先生に車を出してもらったんだし、ちゃんと景色を目に焼き付けておかないと数十円分の損かも!?」
「あはは、カエデ……、ミク先輩が言ってるのは、そういう金銭換算の問題じゃないと思うよ」
「な、なに!? 私の家が貧乏だからって、バカにしてるのか、ユウ!?」
怒るカエデの姿に、車中がどっと笑いに包まれる、
最前列にはカエデと、穏やかに笑う灰色の髪の少年が座っていた。
「でも本当に、このメンバーでお出かけなんて久々だから、わくわくするね」
「そうかぁ? ……まあ、シノカミが病気になってから、旅行の機会なんてなかったからな。今は容態が安定してるって聞いてるけど」
アキトの言葉を聞いて、マリモは少ししんみりした表情になった。
それを見て、アキトは少し慌てた様子で、車窓の外を指差す。
「あ、あれ見てくれよ、マリモ先輩! あの白い雲……ウンコの形に似てるな!」
落ち込んだマリモを元気付けようとしたアキトの一言だったが、返って来たのはグーパンチだった。




