69.鬼とおっさん―2
『あなたに、私の知る異世界勇者の全てを伝えます。だから、私を信じて付いて来てください』
ワラキユ平野から去ろうとするグルゥの前に、マリモは現れそう告げた。
マリモの目は真摯で、嘘をついている雰囲気は無かったが、果たしてアキトの元仲間を信用していいのか。
そもそも、何故死んだはずのマリモが生きているのか、不安な点を数えれば枚挙に暇がない。
それでも、グルゥがマリモに同行することを決めたのは、その隣にいる少女の言葉だった。
『大丈夫。マリモも、今は私と一緒に行動してるだけだからさ。私はカエデ、異世界勇者の一人だ』
そう言った少女は、マリモと比べると幼い顔立ちで、まだ十代前半の姿に見える。
だがその目は、何かを悟ったようにくすんでいて、話してみると見た目以上に大人びた娘であることが分かった。
『それに、そんなに怪我人を抱えて、どこに行くつもりなんだよ。私が世話になってるアマツ公国は、これ以上、ジルヴァニア王国の横暴を看過しない方向で動いている。同じ敵を持つもの同士だ、協力関係にはなれるはずだぜ?』
カエデの言う通り、今は怪我人の治療を優先したいところではあった。
特にブランは、今にも命を落としかねない瀕死の重傷を負っている。
とすれば、罠でない限り、カエデの提案を受けない理由はない。
『分かった、君の言葉を信用しよう。それに、マリモも、何があったのか私にちゃんと教えてくれるか?』
グルゥの言葉に、マリモは少しだけ嬉しそうな笑顔を浮かべて、上目遣いにコクンと頷いた。
元々マリモは、アキトの暴虐ぶりに嫌気が差していたような節もある。
信じることはまだ出来ないが、一度話を聞いてみても良いだろうと、グルゥはそう考えていた。




