XXX深淵の向こうXXX
闇と静寂を愛するヴラディオは、決して部屋に明かりを付けようとしない。
ヴァンパイアであるヴラディオにとっては、それが自然のことであり、己が最もリラックス出来る空間なのだ。
当然、種族特性により、闇を見通す目は持ち合わせている。
だがそれでも、明かり一つ存在しない玉座の間で誰かと話をする姿は、傍から見れば異常だった。
「ふむ……些か、まだ動きがぎこちないな」
ヴラディオが気にしていたのは、再生した自身の右腕のことだった。
城に戻り、蓄えていた“血”を摂取したのは良いものの、その感覚には違和感が残る。
「思えば、あの愚鈍の血を吸った時も怪我の治りが悪かった。……もしや、あの愚鈍の“能力”は」
「なーに一人で難しいことを考えてるの、王様さんっ」
ヴラディオに話しかけたのは、ユグドラシズと同じようにフードを深く被った、小柄な子供である。
ゆったりとしたローブを着こなし、またその声も変声期前のものであるため、少年か少女か――性別すらもはっきりとしない。
「言葉遣いがなってないぞ。王様に“さん”はいらん」
「えへへ、知ってるー。その方が可愛いかなって思って、付けてみただけ」
「……で、何をしに来た。次なる覚醒を行うための相談か?」
「まあ、そんなとこかなー? アイツら、今頃喜んでるのかなぁ。大賢者ユグドラシズを倒すことが出来たって」
その子供は、ローブの肩を震わせ、込み上げる感情を抑えているようだった。
「ホント……滑稽すぎて笑っちゃうよねぇ……たかだか“ホムンクルス”の一体を倒すのに、あんなに必死になっちゃってさァッ!!」
「それで、次の“ユグドラシズ”は、どう動こうと言うのだ?」
静寂とは真反対のユグドラシズの挙動に、ヴラディオは頭を抱え、うな垂れた。
「そうだねぇ……ホムンクルスを裏で操ってるのもいい加減飽きちゃったし、そろそろ出撃しちゃおっかなー」
無邪気に笑う子供の姿に、ヴラディオは疎ましげな視線を送るのだった。




