68.白き炎とおっさん―9
「タイムアップですね」
「ここはお下がりください、王」
ヴラディオの前にも、赫騎士と蒼騎士、二人の護衛が現れる。
「貴様ら……誰が手を貸せと言った?」
「お気持ちは分かります。ですが、こうなった以上、あの魔人との一対一の戦いはもう叶わないでしょう」
「姫のためにも、ここは一度退くべきです。それが王の覇道に繋がると、俺は信じています」
エルゼシュトの言葉に、リーヴスはチッと舌打ちをしながら横目で睨み付けた。
うまいこと媚びを売りやがって、と批難をしている鋭い目つきである。
「お父……様…………」
ヴラディオに連れられ、サリエラがその場を去ろうとする直前。
サリエラは必死にグルゥを見つめて、目で何かを訴えかけていた。
「私、を――」
「サリエラ…………っ!!」
サリエラが口を動かして放った、たった四文字の言葉。
それは言葉にならなかったものの、深くグルゥの胸に突き刺さる。
「……で、どうするんだ? 貴様は、まだやる気なのか?」
緋剣・フラムリッターを構えたエルゼシュトの気迫を前に、グルゥは戦う意思を見せることが出来ない。
「どうせこの場であなたを殺せば、私達が怒られるんですから。ここはお互い、スマートな行動をしましょうよ?」
冷笑でグルゥを迎え撃つリーヴス。
悔しいが、ここは言う通りに行動するしかないと――グルゥは右腕でキット、左腕でブランを抱え上げ、祭壇を降りていく。
「いや、まだそんな体力があるのかよ!?」
「それが“魔人”ですよ。彼らに私の常識は通用しません」
リーヴスの言葉の中には、冷ややかな侮蔑の色が含まれていた。
第12章 覚醒とおっさん ―完―




