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68.白き炎とおっさん―6

 一撃一撃が重く、顔や腹部、食らうたびにグルゥの肉体が変形し血が飛び散る。

 普通の人間であれば一撃で即死するような威力の拳を、グルゥは何十発も受け止めているのだ。


 そして、グルゥはそれに全く怯むこともなかった。


「大切なものを守ろうと思う“正しき怒り”が……私に力を与えるのだッ!!」


 あまりにも遠く、あまりにも重い一歩を、グルゥはやっと思いで踏み出した。


 石造りの祭壇にヒビが入るほど、力強く踏みしめたその一歩。

 全身の体重を拳に預け、グルゥは“白き炎”を纏った右手を突き出した。


「破ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 光り輝くグルゥの拳は、ユグドラシズの胸に突き刺さった。


「…………うむ? お前の全力はこの程度か? まるで蚊が刺すような一撃だな」


 鎧のような筋肉を持つユグドラシズは、嘲笑を浮かべて、グルゥに殴られた箇所をボリボリと掻いた。

 まるで効いてないと――そのアピールをした、次の瞬間だった。


 ぶわっ、とまるで小石を投げ込まれた水面のように、ユグドラシズの肉体が波打つ。

 グルゥの拳が刺さった胸板が、見る見るうちにへこんでいき――


「な、なんだこれはっ!? こ、こんな……最強の体を手にした私に、このようなことがあるはずが――」


「確かに、肉体はどの魔人よりも強いのだろうが……その慢心、打ち砕くには十分過ぎるほどに脆いものだった」


 突き出した右腕を、グルゥが引っ込めたの同時だった。


 あまりの衝撃に耐え切れなくなったユグドラシズの体が弾け、胴体が粉微塵となり、血と肉の雨になって周囲に降り注いだ。

 下半身はその場に残って棒立ちとなり、頭部は祭壇の下へと弾んで転がっていく。


 それが、魔人のキメラであるユグドラシズの成れの果てだった。

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