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68.白き炎とおっさん―5

「それは殊勝な心がけだな。だが――」


 ユグドラシズの全身がパンプアップし、体中に青紫色の血管が浮かび上がった。

 歪な肉の塊が、さらに醜悪を極めた痴態となる。


「虫唾が走るんだよッ!! その、自分が聖人か何かかと勘違いしているような正義感ッ!!」


 真っ黒な瞳から、同じような色の黒い液体がドロドロと流れ出す。

 もはやどのような人体構造なのかも分からない――例えるならば、“悪”、そのものを練って固めたような姿だった。


 だが、そんな異形の姿を目の当たりにして、グルゥの口元は笑っていた。


「少し、安心した」


 千年間の時を生きたと言われる大賢者。

 いったいどれだけの知識と知恵を持っているのかと身構えたが、その中身は、やはり人間と同じなのだ。


「お前にも人の心があるのならば……この勝負、より強い心を持つ方が勝つ」


 ユグドラシズの持つ“悪の心”。

 それを打ち砕くためには、それ以上の“正しさ”を白き炎に込めて叩きつけるしかない。


「無駄だ無駄だァ!! 私には、『サタン』の筋力に『マモン』の俊敏さ、『ベルゼブブ』の明晰さに加え『アスタロス』の精密さ、そしてそれを扱いこなすだけの『レヴィアタン』の鋭敏感覚と『ベリアル』の潜在能力があるッ!! つまりそれを全て発現させれば――」


 双翼を大きく広げるユグドラシズ。

 全身に真っ黒な魔力を纏うと、ぶくぶくに膨れ上がった右腕を振り上げグルゥに襲い掛かる。


「最強ッッッてことだバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 翼による加速。

 その巨体に似つかわしくないスピードで、一瞬でグルゥの前に躍り出たユグドラシズは、容赦なく左右の腕による連打を浴びせた。

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