67.口づけとおっさん―10
「聞く耳持たずか――」
「危ない、親父っ!!」
横から飛び出したキットが、すかさず電撃で氷の槍を撃墜する。
「しゃらくさいっ!!」
サリエラは次の氷槍を撃とうとしたが、次の瞬間、その動きは止まった。
「え…………?」
殺したいほど憎いはずのキット。
そのキットが――口から夥しい量の血を吐き出し、グルゥの足元に倒れたからだ。
「どうしたんだ、キットっ!?」
グルゥは驚いて、両手でキットの華奢な体を抱えあげる。
「クソっ……こんな時にかよ……っ!!」
長く伸びていたキットの銀色の髪が、元の金髪に戻ってゆく。
獣化した手足も、元の五本指に戻っていた。
「それ以上、キットに戦わせちゃダメだ……グルゥさんっ!!」
その時だった、息を切らし、両手を膝につきながらも、ようやく祭壇の下まで辿り着いたミノンが叫んだのは。
「キットは『強欲』の力を行使する度に、自分の生命を消耗しているんだっ!! だから、グルゥさん……それ以上はっ!!」
「なん……だと……!?」
これ以上、隠し通すことは出来ないと――現に瀕死の状態になっているキットを見て、そう判断したミノンの言葉だ。
だが、突きつけられた現実は、グルゥにとってあまりにも重いものだった。
「私を守るために……お前は、自分の命を縮めていたというのか……っ!?」
腕の中で荒く呼吸をする、今にも事切れそうな一人の少女。
その姿はかつて、身を挺してグルゥを守ろうとした、最愛の娘と重なるところがあった。
「もう、娘にあんな思いはさせないと誓ったはずなのに……私は、私はぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!」




