67.口づけとおっさん―8
「お父……様……っ」
諭すようなグルゥの優しい声色に、サリエラの目元が一瞬緩んだ。
だが、その思いを断ち切るように、サリエラはぎゅっと目をつぶると左右に首を振る。
「それならお父様は……私を選んでください……っ!!」
「選ぶ……? 何を言ってるんだ、お前は――」
「だってお父様が本当に大切なのは、キットの方でしょうっ!?」
全身の力を振り絞るように、その言葉を吐き出したサリエラ。
冷たい空気が、身を切るような硬度で凍りついた。
なんと答えれば良いのか――グルゥは逡巡する。
サリエラの目は、間違いなく自分を求めている。
ただ、他人の温もりを求める、濡れそぼった野良犬のような寂しい目。
だがそれだけに、その純粋さは凶器のようでもあった。
「……どちらが大事なんて、私の中では――」
「私は嫌なんですっ!! お父様が、私だけを見てくれないのなら……こんな世界に、意味なんてないっ!!」
同じだ、とグルゥは思った。
サグレスでキットを失いかけた時。
世界の全てを憎み、何もかも壊れてしまえと願った、あの時の自分と同じだと――
「親父……言ってやれよ」
グルゥの耳元で、キットが小さな声で囁いた。
例え嘘だとしても、場の収束を計るため、サリエラを愛していると言ってやれと。
キットは、そうグルゥに提案したいのだろう。




