67.口づけとおっさん―3
キットだった。
突如として訪れた寒波により、凍りついた水の檻。
キットはそのチャンスを逃すことなく、氷を砕いて檻からの脱出に成功したのである。
「邪魔を……しないでください……っ!!」
正常に戻りかけたサリエラの思考が、乱入者の排除という目的により再び欲望の海に飲み込まれてしまう。
「だ、駄目だ、来るなキットっ」
グルゥは叫ぼうとしたが、もはやそのボリュームは蚊の鳴くような声にしかならなかった。
ワラキユ平野を一瞬で氷の世界に変えてしまったサリエラの魔力。
まともに受ければ、キットの体などひとたまりもないだろう。
「もう一度、私に力をください……お父様っ!!」
サリエラはそう言って、再びグルゥの唇を奪おうとした。
不意打ち気味の一発に、グルゥはされるがままになる。
再び、サリエラの全身から放たれた魔力が寒波となり、ついには曇天の雲すらも凍らせ、空からは氷の礫が落ちてきた。
「私とお父様の関係を邪魔するものは……何人たりとも許さない……ッ!!」
「ぷはっ、やめろサリエラ、やめるんだ――」
その光景は、悪夢のようだった。
大事にしていたはずの二人の娘が、自分の身を取り合って殺し合う。
そんなこと、絶対にあってはならないと――願うグルゥの思いは無情にも裏切られ、サリエラの手から放たれた凍て付く波動が、キットの身に襲い掛かる。
「ふざけんなよ……何やってんだよ、サリエラ……っ!!」
迫り来る危機にも、キットは何故か動こうとしない。
それどころか、真っ向からサリエラの魔力を受け止めようとしているようにすら見える。
「親父はオレのもんだ……お前なんかには、絶対に渡さねーッ!!」
その、キットの果てしない『強欲』が解放された瞬間だった。
凍りついた曇天を引き裂いて落下した雷が、キットの体に直撃したのは。




