66.続々・覚醒とおっさん―10
「ふふ。いいぞ、サリーメイアよ……禁欲の甲斐はあったようだな」
そんなサリエラの姿を、右腕を失ったままのヴラディオは愉快そうに遠巻きに眺めている。
異常だと、グルゥは思った。
やはり、この親子関係は異常なのだ。
「頼む……やめてくれ、サリエラ。私は、お前のそんな姿を見たくない……っ」
「やめて、なんて……どうしてそんなことを言うのです? お父様は嬉しくないのですか? ようやく私は、お父様と一つに結ばれることが出来るのですよ?」
サリエラも、既に正気を失っているのだろう。
“魔封じの杖”に貫かれているグルゥを見ても、何一つ疑問を持つことなく、杖から滴り落ちるグルゥの血を指で掬った。
「ああ、もう……っ!!」
そしてその血で、グルゥの分厚い胸板にハートマークを描く。
「我慢出来ません……っ!! 私を受け入れてください、お父様っ……!!」
グルゥの逞しい体にしがみつき、素肌を擦り合わせるサリエラ。
その刺激は、こんな状況だというのに確実にグルゥの快感を呼び醒まし、くらくらするような目眩にグルゥは意識を奪われかけた。
(ま、まずい……これは、この状態のサリエラが使うチャームの魔法……っ!!)
「ハハッ、衆目に晒されながら欲情するとは、とんだ滑稽な光景よ。さあ、サリーメイア……さっさとその男を、犯してしまえッ!!」
ヴラディオの言葉が合図となって、サリエラは正面からグルゥに向き直る。
そして、その髭面を白い手でしっかりと掴むと――
「私の初めてを奪ってくださいっ……。いただきます、お父様……っ!!」
何度も血を吐き、血塗れになっていたグルゥの口元に、唇を重ねた。
「ん、うぅぬ…………っ!!」
グルゥの必死の抵抗も虚しく、サリエラの舌が中に入ってくる。
だが、それは淫欲に駆られた接吻というよりは――
(私の血を、舐めとっているのか……!?)
その瞬間、サリエラの全身に描かれた紋様が、眩い光を放って輝き始めた。




