66.続々・覚醒とおっさん―6
「何をする、貴様ァッ!!」
それに激昂したのはヴラディオだった。
拾いあげた自身の右腕を、ユグドラシズの胴体目掛けて投げつける。
しかし、瞬時に張られた光の結界によって、右腕はユグドラシズに到達することなく粉々に砕けた。
「手を出すなと言っただろうがッ!! 我はまだ、戦いを愉しんでいる最中だぞッ!!」
「本来の目的を見失うな、王よ……。我々の目的は始めから、“覚醒した魔人”だったはずだ」
ぐったりとうな垂れたグルゥを、ユグドラシズは『サタン』をも超える巨体を生かし、両手で軽々と担ぎ上げる。
グルゥの胸には、未だ杖が貫通したまま。
(なん……なのだ、これは……)
徐々に魔獣化が解けていくが、グルゥは困惑していた。
(まるで、『憤怒』の感情だけをピンで留められたようだ……このままでは、炎を更に燃やすことも、消すことも出来ない)
ユグドラシズの杖に何らかの秘密があることは確実だ。
だがまるで、グルゥの変貌を待っていたかのような――ピンポイントに『憤怒』の力を狙い打つようなユグドラシズの攻撃に、グルゥは対抗する術を持たなかった。
「それに私は、王と子の決闘を邪魔するなとは聞いていたが、魔人との戦いを邪魔するなとは聞いていないぞ? 覚醒実験の材料を揃えることが、王の大志を果たす道程ではないのか?」
ユグドラシズの放つ言葉を聞いて、グルゥは耳を疑う。
「ざい……りょう…………? 私、が…………」
「“魔封じの杖”に刺されながらも口が利けるとは大したものよ。対魔人の、特攻武器なのだがな」
(まさか始めから、私がここに来るのを見越していたというのか……!?)
恐るべき可能性に、グルゥは戦慄する。
だが、ユグドラシズの口ぶりは、この瞬間を待ち侘びていたようである。




