64.覚醒とおっさん―7
突如として祭壇上で始まった戦いに、覚醒実験を控え騒然としていたワラキユ平野は、一瞬にして静寂に包まれた。
「何を……してるんだ……隊長ォォォォォォォォォ!!」
エルゼシュトが咆哮と共に祭壇へと駆ける。
「やれやれ……仕方がない人ですね……」
リーヴスはその場からは動こうとせず、ユグドラシズの動向を見つめていた。
(兵が集まる前に決着を付けなければ)
動き出した戦いの空気に、ブランは次なる一撃のために剣を引こうとする。
が、とてつもない怪力により、ヴラディオに掴まれた剣はピクリとも動きそうにない。
その剣先は、しっかりヴラディオの左手を抉っているのに、だ。
「フン……その程度の力しか持たぬとは、やはり貴様は脆弱で無能な人間だ」
「ええ、それは、あなたに比べればそうでしょうね」
ヴラディオの侮蔑の言葉を、ブランは真っ向から受け止めた。
(自分が父に劣っていることなど、当に分かっている)
腕力、魔力、知力など、全てにおいてヴラディオに勝っている点など無いと、ブランは自覚していた。
(だが、だからこそ……自らの弱さを自覚してこそ、見えるものもあるのだッ!!)
「死ぬがいい。我が生涯において、唯一の失敗作よ」
手刀を作り、鋭い突きを繰り出すブラディオ。
その爪先は、ヴラディオの意思により刃物のように鋭利に尖っている。
ドスリと、刃が肉に突き刺さる生々しい音。
ボタボタと夥しい量の鮮血が、祭壇を赤く染めた。




