64.覚醒とおっさん―4
「それともう一人……なんだ? あの規格外の大男は? 『サタン』でも、あれほどの大きさは見ないぞ」
「アイツが大賢者ユグドラシズだ。……勇者戦争から始まる、今回の一連の騒動の首謀者であり、ボクを造った創造主でもある」
重苦しい口調でミノンは答えた。
あれがユグドラシズなのかと、グルゥは改めてその姿をまじまじと見る
身長三メートルはあろうかという大男だが、その顔は、深く被り込んだフードによりほとんど見えなかった。
だが、大きなローブに身を包み、大木の幹としか思えない杖をついている姿には、確かに魔導士の風格がある。
「あいつを倒せば、全ては終わるのか」
グルルルと、殺気を込めて唸り声をあげるキット。
「分からない。だけど、それで大勢の人々が救われるのは事実だろうね」
ミノンの言葉に、グルゥは深く頷いた。
そう、ノニムは今、ユグドラシズの手の内にいるはずなのだ。
愛する娘を救うためにも、ここはサリエラを助けるだけでなく、何とかしてユグドラシズを倒してしまいたい。
「やるなら、今しか……!」
気炎を吐くグルゥを見て、ミノンは眉間に皺を寄せた。
グルゥの暴走を心配する、苦みばしった表情だ。
「ん……あれは……っ!?」
その時、双眼鏡を覗いていたグルゥは驚きの声をあげた。
祭壇に黒い棺を持ち運んでいく兵が二人と、それと一緒に上っていく男が一人。
ブランである。
つい先程まで御者を務めていたはずだが――慌てて双眼鏡を外して視界を向けた先では、ブランの姿は忽然と消えていた。




