64.覚醒とおっさん―2
「うーむ」
腕組みをして唸るグルゥ。
言われるがまま、三人はブランが率いる馬車の幌に乗り込んでいた。
「本当に大丈夫ですか? 何かの罠では」
「いや……あの男はあれでも、信用に値する男だと思う」
ふんどしに場所を書いてまで、サリエラの窮地を伝えようとしたブランである。
その心意気は、十分にグルゥも理解しているつもりだった。
だが、それ故に解せない点がいくつかある。
(サリエラのことが心配なら、覚醒実験の直前にわざわざ私を探しに来るか? 実験場から離れたくなのが心理では?)
御者を務めるブランは、こちらの問いには答えるものの、それ以外のことは喋ろうとせず最低限のコミュニケーションしか取ろうとしない。
妙な違和感を覚えつつ、グルゥは幌の中からブランに話しかける。
「サリエラは無事なのか。覚醒実験とは何をするつもりだ」
「さあ? 私もそこまでの情報は無いので分かりません」
黙り込むブラン。
いやそれだけかと、続かない会話のキャッチボールにグルゥはずっこけた。
「お前は、どうやってサリエラを助けるつもりなんだ。何か作戦はあるのか」
「それは、現地に着いてから説明しますよ。というか、もう着くので隠れていてください。念のため、馬車の中にシートを積んであります」
これに隠れろということかと、三人は慌てて布に包まって小さくなる。
と、グルゥは布の下に、双眼鏡が置いてあったことに気がついた。




