63.五彩の騎士・白とおっさん―8
しかし、その日々にも終わりの時が来た。
「出ろ」
ある日、牢に繋がれたブランの前に現れたのは、ジルヴァニア王だった。
その怜悧な目つきで睨まれた瞬間、忘れかけていた恐怖に支配された日々を思い出し、ブランは失禁した。
その姿を見て、ジルヴァニア王は侮蔑の笑みを浮かべる。
「仕様のない男だ。その根性の無さ、あの女と同じだな」
あの女、というジルヴァニア王の一言。
母が残した恨み節を想起させる。
「少しの間、国を出なくてはならぬ。腐っても貴様は現状唯一の直系の王族だ。実務は我が配下に全て任せたが、表立った行事は貴様が前に立て」
「唯一……っ!? 母上は、いったい――」
慌てふためくブランを見て、ジルヴァニア王は再度嘲笑を浮かべた。
「何を心配している。貴様が殺したのだろうが」
「…………ッ!?」
「案ずるな、あの女はあの日以来、ずっと壊れたままよ。民へは難病にかかったという体にしている。貴様が手をかけようとしたことは、城内でも一部の者しか知らぬ話だ」
それを聞いて少しでもホッとした自身を、ブランは恥じ、憎しみ、吐き気を催すほどの嫌悪感を覚えた。
「父上は……何処へ行かれるのですか。今まで、長期間城を空けたことなど、なかったはず」
「ふん、それを聞いてどうするつもりだ、貴様は」
そう言いながら、ジルヴァニア王はブランの手枷と足枷を外した。
擦り剥けて赤くなった部分を撫でられ、ブランはその痛みに驚き、ハッとジルヴァニア王の顔を見た。
その時のジルヴァニア王の邪悪な笑みを、ブランは今でもはっきりと覚えている。
「女を犯しに行ってくる」
この男には絶対に勝てない――言いなりになるしかないのだと、ブランが本能で理解した瞬間だった。




