60.続・黒き炎とおっさん―4
「問題無かろう。どうせその内、だれかが代えのズボンを持ってくる」
「その間、ずっとパンツ一丁の姿を晒し続けるのか……? この王様は……」
呆れ返るヴァングリフに対し、ネアロはそんなことどこ吹く風で、むしろ開き直って話を続けた。
「まあ、今見てもらった通りだな。我々『ベルゼブブ』は頭を使う作業には滅法強いが、どうも体を動かすことについては、鈍くさいというか、苦手分野なのだ」
「だからこうして、他の種族の有望な人材を引き入れることによって、戦にも勝てる戦力を整えていくと」
「そうそう。そのために、四天王というポストを用意したんだよ。なんだよ、分かってるじゃーん」
「じゃーん、じゃなくて。後、生クリームをチュパチュパ吸いながら話すのムカつくから止めろ。人と話す態度じゃねぇ」
「他人の前ではもちろんやらないさー。だけど、君の前でなら別に良いだろ? 君と私は家族なんだからな、我が愛しの息子よ」
生クリームいる? とチュパりかけのチューブを差し出すネアロ。
いらねぇ、とヴァングリフはチューブを突っ返した。
「気持ち悪い言い方をするな。せめて“義理の”って付けてくれないかな」
「そういう遠回しな言い方のほうが気持ち悪いぞ。そうそう、孫娘の奪還についてはお見事だったね。どうだい? 感動の再会の結果は」
「……まあ、なるようにしかならないさ。失った時間を、今から埋めていくまでのことだ」
ヴァングリフの表情が思ったより優れないのを見て、ネアロはハテ、と小首を傾げた。
「まあ、それよりも、今はイルスウォードの今後についての話だろ」
「ああ、ああ、そうだったねぇ。今回はまんまと……ユグドラシズにしてやられたからねぇ」
そう言って、ネアロは生クリームのチューブの中を吸い尽くし、一本目を空にしてみせた。




