59.黒き炎とおっさん―9
「私……が…………なんとか、してみせるから……」
力無く言葉を発したマリモは、もう一度光の矢を番える。
チャンスは一度だ――二人の刺客は、恐らく戦車を盾にして漆黒の炎を破ってくるだろう。
「その瞬間を……逃さず撃つ……ッ!!」
漆黒の炎が揺らぐ瞬間を待ち、矢を引き絞り、待機の姿勢を取るマリモ。
しかし――戦車の駆動音はするものの、いつまで経っても二人は突っ込んで来ることなく、うろうろとその場を走っているようである。
「く……我慢比べってこと……っ!?」
額にかいた汗が垂れて、目尻に流れる。
その痛みにマリモが片目をつぶった、その瞬間だった。
「なーんちゃって、そっちはダミーだよーっ!!」
その声は――マリモの足元から聞こえてきた。
「下……っ!?」
せり上がる地面。
見えなければ、狙いを定めることも出来ない。
そして光の矢を放つよりも先に、機銃の一斉掃射が始まろうとした、その時である。
「見えたッ! 次元のほつれッ!!」
カッと目を見開いたカエデが、真一文字に居合い斬りを繰り出していく。
「“次元斬”ッ!!」
漆黒の炎が、何もない空間を蝕み始め――ケントラムを襲ったような世界の“裂け目”が、その場に広がっていく。
「え、カエデ――」
「な、なんじゃこれはっ!?」
裂け目は手当たり次第に辺りのものを飲み込んで、マリモも、二人の刺客さえも、その空間から姿を消してしまった。




