59.黒き炎とおっさん―3
そこには二人の魔人がいた。
一人は『レヴィアタン』の血統の老人。
白い髪に白い髭とまるで山羊のような風貌だが、チロチロと伸ばす紫の舌の先が、二つに割れている。
もう一人は『アスタロス』の少女だ。
歩く度に地面がめり込みそうな鋼の鎧に身を包んでいて、ピンクのツインテールという可憐な外見とは裏腹に、かなり物騒な姿をしている。
「誰だ、お前ら」
「ワシはイルスウォードの四天王の一人、ハヌ・トゥじゃ。そしてこっちは」
「はいはーい! 同じく四天王の一人、ルルリリちゃんでーすっ! アタシたちがわざわざここまで来たってことはぁ、分かるよねぇ?」
ルルリリの問いに対し、少女はフンと鼻で笑うだけだった。
ぷんぷんっ、とルルリリは頭に手を当てて、わざとらしく怒りのジェスチャーをする。
「あの子の態度、すっごく頭に来るんですけどぉ! おじじっ!」
「ワシはお前のポーズとその金切り声が頭にグワングワン来ておるがな……。まあ、そういうことじゃお若い娘さん」
温厚そうだったハヌ・トゥの全身から、一瞬にして鋭い殺気が発せられる。
先程までの雑魚とは違うと、少女は直感した。
「無駄死にしたくなきゃあ、おとなしく捕まっておいた方が身のためじゃぞい」
杖を突き、腰の曲がった年寄りじみた姿のハヌ・トゥだが、その背中がベキベキと膨れ上がりマントを押し上げていった。
露わになったのは甲羅――背負っていた甲羅から、トゲ状の突起が突き出したのである。
「まずは小手調べじゃな」
背中を向けたハヌ・トゥの甲羅から、無数のトゲが打ち出された。




