6.過去とおっさん―8
「――それからのことは、もう思い出したくもない。私の娘、ノニムは異世界勇者に連れ去られていった。私は心臓に剣を突き立てられ、そこで死んだはずだったのだ」
だが実際のところ、グルゥが次に目を覚ました時、そこは燃え尽きた魔王城のガレキの中だった。
丹精を込めて開墾し、領民たちと共に作り上げた村には火が放たれ、多くの領民がそこで死に絶えていた。
何故、自分が生き残っているのか。
その理由はまるで分からず、グルゥはただ天に向かって『憤怒』の咆哮をした。
眠っていた『サタン』の血統の力が目覚めたのは、その時だった。
「不思議だろう? 魔獣化し、ほとんどの傷は跡形もなく消えたのに、この胸の傷だけが消えないんだ。まるで、胸にぽっかりと穴が空いたのを、そのまま現しているようにな」
そう言って、グルゥは傷痕をなぞるキットの手を、優しく包み込んだ。
キットは肩を震わせながら、黙って話を聞いている。
「これが私の昔話だ。……すまないな、嫌な思いをさせてしまって」
そう言って、グルゥがシャワーの水を止めようとした、その時だ。
「なん……だよぉ……っ!」
突然、目の前が暗くなる。
キットが、グルゥの顔をぎゅっと抱き締めたのだ。
「いっつも、人のことばかり心配しやがって……! 親父の方が、オレなんかよりよっぽど大変な目に遭ってるじゃんか」
頭にはキットの手が乗せられ、いつもと逆の立場にグルゥは困惑した。
キットはまるで子供を慈しむ母のように、何度も何度も、グルゥの頭を撫でてやる。




