XXX新たなる災禍XXX
雷雲の中、礫のような雨が激しく窓を叩く。
薄暗い玉座の間には、二人の男の声が響いていた。
「随分と派手にやったものだな。あれでは必要以上に警戒されてしまうのではないか?」
男は手元のチェスの駒を一歩進めながら、そう言った。
コツ、コツとテンポ良く駒が盤面を打つ音が響く。
「祝砲みたいなものだよ。大事を成すには、それ相応のスケイルが必要なのさ」
「だがしかし――君のお気に入りの勇者は、死んでしまったようじゃないか?」
「フ、その程度は想定の範囲内さ。ここからがスタートだ、と言ってもいい。それにお気に入りと言えば……君は随分と“翡翠”が大切と見える」
強打を最後に、駒を進める音が止まった。
「どういう意味だ」
「そのままの意味だがね。おかげで、“瑠璃”を落とすのには大分苦労してしまったよ」
コツン、という音を最後に、しばし静寂の時が流れる。
雨の激しさが、煮えたぎるような心の内を表しているようだった。
「あまり調子に乗るなよ。お前には、“器”を逃がした負い目もあるのだぞ」
「その“器”も、どうやら力を吐き出してしまったようだがな。であれば、もう一度“器”を作り出せばいいだけのこと」
駒が砕けそうなほどの荒々しい一打が、玉座の間に鳴り響いた。
「チェックメイトだ。話し合いはもういいかな? 早速、“器”の作成に取り掛かりたいのでね」
「貴様、我に対しそのような態度――」
稲光と共に、玉座の間の中が照らされる。
勝利を手にしすっと立ち上がった男は――フードを深く被り顔こそ見えなかったものの、三メートルを超すような大男だった。
「君こそ、年長者を敬い給えよ。私は君より、千歳近くは年上のはずだがね」
玉座の間を去る男。
雷鳴と共に、盤面をひっくり返すような荒々しい音が響いた。




