56.世界の始まりとおっさん―10
異常な光景に、グルゥは目を疑った。
暗雲の切れ間の向こう、広がった空には、昼間だというのに宵闇のような濃い黒が浮かんでいる。
そして、その“裂け目”のような空間に、人や物、様々なものが吸い上げられている。
「なんだ……何なんだこれは!? いったい何が起きている!?」
「ユグドラシズ……か。思ったより、事態は深刻なスピードで進んでいたみたいだ」
混乱するグルゥに対し、ミノンはしたり顔をして頷いていた。
グルゥはすぐにミノンの肩を掴む。
「ミノン! 何か知っているのか!?」
「知っているも何も……ボクを作った張本人だろうからね、ユグドラシズは。そして、ヤツによって世界の均衡は崩された」
そう言って、ぎゅっとグルゥの腕を掴んだミノン。
それがどういう意味なのか――ハッと気が付いたグルゥは、慌ててベッドの上のキットを抱き締めた。
「ぎゃっ!? いたい、いたいっ! もっと優しくしてくれよぉ!?」
「わがまま言うな、今はそれどころじゃない……絶対に、離れるなよ!?」
直後、グルゥらのいた病室の天井がめくれ、三人もまとめて空中に吸い上げられていった。
「うわああああああああああああああああ――」
天変地異としか言いようがない状況に、さすがのグルゥも為す術がない。
グルゥはキットとミノンを腕の中に抱き締めたまま、世界の裂け目に吸い込まれていく。
『これが、新たな世界の始まりだ……!』
混沌と悲鳴が渦巻くケントラムに、新世界の始まりを告げる災厄の哄笑が鳴り響いていた。
第10章 世界の始まりとおっさん
第2部 イルスフィア騒乱編 ―完―
復讐を遂げたグルゥ。
だが走り出した悪意は平穏を齎すことはなく、新たなる災禍が降り注ぐ。
故郷に帰ったサリエラと、父を求めたミルププ。
全ての運命は、ジルヴァニア王国にて絡み合う。
NEXT → 第3部 ジルヴァニア戦乱編 ―開幕―




