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56.世界の始まりとおっさん―7

「ああ……これで、終わったよ……ムジカ……」


 雨はあがったはずなのに、アキトの頬に、一滴、二滴と生温い雫が零れ落ちる。

 アキトはその刺激にも何一つ反応を示すことはなく、完全に事切れていた。


 果たして、ムジカの仇を討ったことにより、心の整理はついたのだろうか。

 自分の中で、何か変わったことはあったのだろうか。


 その答えは、すぐには出せそうになかった。


 まだ、仇を討ったのだという実感もないし、アキトを殺したことも、もはや敵討ちというより世界の脅威を取り除くための選択だった。


「そう、だな……まだ私には、やることが……」


 そして明らかになった、新しい事実。

 ノニムはまだ生きていて、世界のどこかで、助けを待っているということ。


 娘を助けるためには、また新しいスタートを切らなければならない。

 アキトとの戦いで精も根も尽き果てていたが、グルゥは鉛のように重くなった体を動かし、何とかその場に立ち上がった。


「…………ああ…………っ!」


 その瞬間、だった。


 満月の明かりに照らされて、教会の周囲を囲んでいた花畑が、夜露に濡れて艶やかに彩りを持ち始める。


 赤、黄色、ピンク、緑、紫。

 カラフルな色彩が目の中に飛び込んできて、その眩しさにグルゥは思わず顔を覆った。


 知らなかった。

 ――いや、ムジカを殺され復讐に囚われていたあの日から、ずっと忘れていた。


 世界はこんなにも美しく、花が綺麗だなんて、そんなささやかな感動がそこら中に溢れていたことを。


 あの日から止まっていた時計の針が、閉ざしていた世界がまた動き始めたことを、グルゥは静かに感じ取っていた。

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