6.過去とおっさん―6
「あ、あ、あぁ……あああああ……!!」
ムジカの目から一瞬で生気が消え、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
グルゥは這ってムジカの側に寄り添い、両手で必死に胸の出血を止めようとする。
グルゥの姿が見えた瞬間、ムジカの目には一瞬だけ光が戻っていた。
その唇は、何かを伝えようとパクパクと動いている。
「あい、し……」
その言葉を読み解こうとしたグルゥだったが。
それは最後まで紡がれることなく、ムジカは血の塊を吐いて、そのまま二度と動くことはなかった。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ……!!」
体が震えた。
先程まで、何か起きようとしていた変化の片鱗は、ムジカを失った『絶望』に上書きされてしまう。
目の前の光景は、果たして現実なのだろうか?
これは夢で、いっそ自分も殺されれば、悪夢が醒めまた穏やかな日々が始まるんじゃないだろうか?
愛する妻の死を目の当たりにし、グルゥの精神は完全に壊れてしまった。
「んでこれが、“完全回復”のチートスペル。あーあ、相当MPを使っちまったな、コレ。宿屋でゆっくり休まねーと」
少年が自身の左手から放たれた光を当てると、右肩の傷は一瞬で完治してしまう。
そんなこと、現実にあり得るのか?
夢だ。やはり、これは悪い夢なのだ。
「そうだ、こんなこと、こんな酷いこと……現実であるはずが、ないんだ」
「……プッハハ!! なんだおっさん、壊れちまったのか? まあいいや、おっさんみたいな屈強な男を、痛みと絶望で支配するのは――」
少年の口元が歪み、愉悦に満ちた笑みが形成される。
「最ッ高に興奮するシチュエーションだよな」




