56.世界の始まりとおっさん―2
「大丈夫だよ……パパ」
その言葉遣いに、グルゥは妙な違和感を覚え、ハッとした。
「ノニム……なのか?」
「この体は、あくまでも“器”でしかないから……私の魂の欠片は無くなっちゃうけど、フォルが尽きなければ……大丈夫……」
そう言い残し、ミノンはグルゥの腕の中で気を失った。
気持ちとしては放っておけないところだが、
「チートスペ――」
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアッ!」
アキトは不意打ちにチートスペルを放とうとしたところに、グルゥの絶叫に近い咆哮が響いた。
教会内の窓やステンドグラスが一斉に割れる。
子供達は一斉に耳を塞いだが、中には失神してしまう子供もいた。
それほどまでにグルゥの咆哮の破壊力は強く――アキトの喉の動きさえも押さえつける、それほどのパワーがあったのだ。
「ク、クソッ」
詠唱を止められてはどうしようもなく、劣勢を悟ったアキトは割れた窓から外に逃げ出していく。
だが、
「ゥゥウウウガァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアッ!!」
駆け出したグルゥは、その体で教会の壁をぶち破り、あっという間にアキトに追いついた。
首根っこを掴まえると、二人はそのままもつれ合って、泥まみれになりながら地面の上を転がっていく。
「…………終わりだ、アキト」
上を取ったのは、グルゥだった。




