56.世界の始まりとおっさん―1
「お前……何を……っ」
アキトは自分の目を疑っていた。
それまで、何の意思も見せず、ただの人形と化していたはずのミノン。
そのミノンが、事切れる瞬間のグルゥに対し、手をかざし何かアクションを起こそうとしている。
「何をしてんだよッ、クソガキがッ!!」
とっさに右手を突き出したアキト。
だが、
「チートスペル“光の剣”ッ!!」
詠唱を伴うチートスペルの発動は、僅かなタイムロスを生んだ。
背中から胸部を貫かれ、ミノンはその場に倒れ込む。
やったかと――アキトの口の端に歪んだ笑みが浮かんだ、その瞬間だった。
ぼうっとグルゥの心臓より生まれた白い炎が、自身を貫く十字架を焼き尽くして白い灰に変えていく。
白き炎より生まれた心臓により、グルゥは再び自分の体に活力が戻っていくのを感じ、驚愕していた。
「なんだ……この力は……っ!?」
魔獣の姿への変貌は無く、魔人として、湧き上がる力を行使することが出来る。
グルゥの視線はアキトに向かうよりも、先に足元のミノンへと注がれた。
「大丈夫か、ミノンっ!!」
ここに来て自分を助けてくれたミノンに、グルゥは計り知れないほどの驚きと感謝を抱いていた。
腕の中のミノンは、ニッと勝ち誇ったような笑みを浮かべてみせる。




