55.バッドエンドとおっさん―7
『どうして?』
その声に耳を塞ぐように、グルゥは何も考えないよう心を閉ざす。
『どうして、諦めちゃうの?』
(諦めじゃない。こうすることが、最良の選択なんだ)
『どうして……自分に勝つことを諦めてるのっ! 答えてよ、ねぇ、パパのバカっ!!』
それは聞き慣れない少女の声――いや、かつては毎日のように生活の中で聞いていた、グルゥが最も恋しく思っていた者の声だった。
「え……!?」
暗黒の世界に、初めてグルゥの声が響いた。
目の前には黒い炎を纏った少年ではなく――白い炎を纏った少女が居る。
「ノニム……!? どうしてこんなところに……!?」
『私は、ずっと側に居たよ。パパがいつまでも気付かないから、迎えに来ちゃった』
白い炎を纏った少女の声は、確かに愛娘であるノニムのものだった。
「迎え……? あ、そ、そうか。私は死んだんだな」
『バカっ! こんな時に下らないボケなんてしないでよっ!』
白い炎を纏った少女に、頬を引っ叩かれるグルゥ。
ムジカ譲りの気の強い女の子だった。
懐かしさすら感じるやり取りに、思わずグルゥの胸が詰まり、何も言えなくなる。
『説明してる暇なんてない。早くしないと、あの異世界勇者にパパも私も殺されちゃう』
「ま、待て、どういうことだ!? お前も殺されるというのは――」
『みんなの魂を、全部パパに預ける』
白き炎の少女は、そう言ってグルゥの心の一番柔らかい部分に、そっと手を添えた。




