55.バッドエンドとおっさん―2
ヌエツトの城下町を、手提げ袋を片手に歩くグルゥ。
デルガドスによってヌエツト城に招かれたグルゥは、経理として雇われ、帳簿を付けたり雑務をこなす日々を過ごしていた。
その日もグルゥは、備品を買うために昼下がりの穏やかな町を、のんびりと歩いていたのだが。
「いやっ、離しなさいっ!」
唐突に路地裏の方から聞こえてきたのは、何やら切迫した叫び声である。
トラブルの臭いを感じて、グルゥはすぐさま声のした方へと駆け出していった。
「離してって言ってるでしょ!?」
「へへっ、ちょっとくらい、良いだろ?」
「遊ぼうって言ってるだけだぜ、そんなにデカイ声出すんじゃねぇよ」
そこにいたのは、螺旋状の角を持つ黒髪の若い女と、絵に描いたようなチンピラの若者二人組である。
ただしグルゥはその女性の姿を目にした瞬間、全身に電流がはしるような衝撃を受けていた。
(な、なんて美しい女性なんだ)
艶やかな長い黒髪に、すらっとしたしなやかな立ち姿。
その目は芯が強そうな凛とした輝きを湛えていて、何より目を引いたのは――その胸の大きな膨らみだ。
(って、何を考えているんだ私は)
すぐにぶんぶんと首を左右に振って、煩悩を捨て去ろうとするグルゥ。
だが二十代前半という“お年頃”のグルゥにとって、その女性の姿はあまりに魅力的で、後先を考えずに首を突っ込むのには十分すぎる理由だった。
「や、やめなさいっ!!」
思い切って大声を出してみたものの、緊張で若干裏返ってしまったのが情けなくて恥ずかしい。
チンピラ二人組の視線が、女性からグルゥの方へと移っていった。
「手を出すのなら……その子ではなく、私にしなさいっ!!」




