6.過去とおっさん―4
許せなかった。
辺境の地の領主となった自分を快く受け入れてくれた、穏やかな領民達。
そんな彼らが、たった今に、理不尽な暴力に襲われている。
「許さん……絶対に、許さんッ……!!」
それはグルゥにとって、封印した扉を開けるような行いだった。
幼い頃に捨てたはずの、『憤怒』の感情。
それが今、胸の奥で轟々と燃え盛り、感じたことのない力を授けようとしている。
血の涙を流しながら、なんとか自らの力で立ち上がろうとするグルゥ。
だが自らの血だまりで足が滑り、その場に不恰好に転倒してしまった。
「ギャハハ……っ! なんだよ、それ。おっさん、マジで魔王なのかよ。勇者ってマジ、人生イージーモードで生きていけんのな」
「さっきから……貴様は、何を、言って……!!」
残った左の黒角がギリギリと軋む。
その肉体に変化が起きようとしていたが、それと同時に、あまりの出血量に意識も朦朧としてきている。
このまま、『憤怒』の感情に己を委ねていいのか。
グルゥが躊躇していた、その時だ。
「やめなさいっ!!」
勇ましい掛け声と共に、槍を片手に持ったムジカが玉座の間に突入してきた。
その目には、グルゥが見て分かるほどの『憤怒』の感情が溢れている。
「よくも、私の夫を――」
「ま、待て、やめるんだ、ムジカッ!!」
グルゥの叫びが、玉座の間をビリビリと震わせた。




