6.過去とおっさん―2
「なーんか、物足りねぇよなぁ?」
貯金を崩しローンまでして、ようやく建てた二階建ての魔王城。
領民が訪問して来ることもあるだろうと、ムジカに怒られながらも見栄を張って作った玉座の間は――既に鮮血に染まっていた。
「お前、本当に魔王なのか? 全然手応えが無いし……これじゃ、全然勇者してる感じが無いんだよなぁ」
そう言って、少年は倒れたグルゥの背中に、何度も爪先で蹴りを入れた。
どこにでもいるような黒髪の少年。
まだあどけなさすらある幼い顔つきだが、その目は異様なまでに血走り、何かを探すように忙しなく動いている。
グルゥは肩から胸にかけて袈裟懸けに斬られた大きな傷が原因で、床に倒れ動けなくなっていた。
何故だ、とグルゥは自分に問いかける。
頑強な体が特徴の『サタン』の血統である自分が、こうも易々と斬り伏せられてしまうとは。
「き、貴様、何が目的なんだ。金なら渡す。頼むから、これ以上の暴力は止めてくれ」
「目的? ……そうだなぁ、強いて言うなら」
少年の目は、己の正義に酔いしれるように陶酔していた。
狂っている、とグルゥは思った。
「レベルアッープ。だってほら俺、勇者だから」
そう言うと、少年はグルゥの右角を掴み、強引に顔をあげさせた。
「知ってるぜ、おっさん。『サタン』の血統を持つアンタらにとって、この黒角は誇りなんだってな」
まさか、とグルゥの顔色は一瞬で蒼白になる。




