52.続々・惨劇とおっさん―8
ミルププの戸惑いを察したのだろう、ヴァングリフの表情が僅かに歪む。
「余計なことを言うのはやめてくれねぇか?」
ヴァングリフがほんの少しだけサリエラを持ち上げると、襟で首が絞まって、サリエラは苦しげに呻いた。
「やめて!」
ミルププはヴァングリフの太い腕にしがみついたが、あっさりと振り払われ、尻餅をつく。
「黙ってろ。……お前は俺に従っていればいい、ミルププ」
「いいん、ですか……!? ミルププは、お父様のことを、見捨てるんですか……!?」
脂汗を流しながら、必死に言葉を発するサリエラの姿を見て、ミルププの動揺はさらに強くなった。
「あ、あのねサリエラ。私、は――」
だが。
「お父様ってのは……俺のことを言ってるのか?」
ヴァングリフの言葉の意味が分からず、サリエラは一瞬呆気に取られる。
その様子を見て、ヴァングリフは興味を失くしたように、ミルププを突き飛ばして床の上に転がした。
「悪いが、コイツは俺の大事な大事な娘なんだ。他の誰にも渡すつもりはない。俺からミルププを奪うつもりなら、俺はどんな手を使ってでもソイツを殺すぜ」
そう言って、ヴァングリフは尻餅をついていたミルププを両手で抱え上げる。
キャッと短く悲鳴をあげたミルププは、申し訳なさそうな顔をして、サリエラを見下ろしていた。




