52.続々・惨劇とおっさん―6
「まさか、そんな非合理的な行動はしませんよ。私に命じられた内容は、あくまで街を破壊した魔人の確保と異世界勇者の監視ですから。あなたと戦うとただでは済まないことは、その佇まいを見れば十分に分かります」
「ちょ、ちょっとリーヴス、彼を見逃すっていうんですか――」
「その通りです。ここで事を起こせば……私はともかく、姫も無事ではいられないでしょうから。あなたのお守りをしながらこの場の敵を全員倒すというのは、いくら私でも無理ですよ?」
それはそうかもしれないが、約束をしたのに、とサリエラは納得がいかない気持ちだ。
「俺は嫌いじゃねぇぜ。お前みたいに身の程をわきまえてるヤツってのはよ。そろそろ、『サタン』以外にゃあ辛い火の回り方になってきたし、外からの護衛も来るだろう。お前ら、ここは退却するぞ!」
「しかし、せっかく拿捕した王達は――」
「バカヤロー。そんなことしたら、本当にここで全滅エンドだ」
そう言って、ヴァングリフはチラリとリーヴスの方を見やる。
リーヴスは満足げな表情で頷いていた。
「ええ。私も、あなたのような的確な状況判断が出来る人間は嫌いじゃありませんね」
「へぇ? それならイルスウォードの一員になるかい?」
「あー、それも次の就職先としては、良いかもしれませんねぇ」
「バカ言え。そんな殺気をバチバチに放ってるヤツ、雇えるわけねーだろ」
ヒュウ、と口笛を吹いておどけてみせるリーヴス。
サリエラには分かっていた。
リーヴスが後ろ手に魔力を収束させ、隙あらば不意打ちを狙っていたことを。




