51.続・惨劇とおっさん―10
「が…………ッ!!」
血の塊を吐いたのは、デルガドスの方だった。
鉄柱のようなデルガドスの拳を咲け、そのカウンターとして、ヴァングリフはデルガドスの胸に大剣を突き立てていた。
「……貴様のようなやり方では、国を守ることなど……到底不可能なのだ……ッ」
「あんたが守りたかったのは、国じゃなくて自分のプライドだろ。暴力で民を支配し、反抗するものを犠牲にするようなやり方は、優れた為政者とは言えない」
ヴァングリフが大剣を引き抜くと、デルガドスの胸から血のシャワーが吹き出した。
マグマのように沸騰した血液は、炎を消すことはなく更なる着火剤として火に油を注ぎ、ホールに回った炎の勢いはさらに増していく。
デルガドスがうつ伏せに倒れると、大きな地響きが起こった。
徐々に変貌が解けていき、“白鯨”の巨体が、元の巨体へと戻っていく。
「まだ、だ」
「え、お父さん……?」
「こんなもんじゃ、暴君はまだ倒せない」
ヴァングリフはそう言うと、うつ伏せに倒れたデルガドスの首元へ、大剣を突きつけた。
ミルププはハッとして、ニフラの腕の中から飛び出してデルガドスの元へ駆けつけようとする。
だが、
「来るな、ミルププッ!!」
「え――」
「これは……お前と共に暮らすことが出来る世界を作るために、必要なことなんだ」
ヴァングリフの言葉に、ミルププは足を止める。
どうすればいいのか分からなかった。
デルガドスを助けるべきか、それとも、ヴァングリフに協力すべきなのか。
「イルスウォードが、新たな世界を作る」
振り上げた刃を振り下ろそうとするヴァングリフ。
だが、その時だった。
「ふーん。面白そうなことやってんじゃん」
悪意に満ちた少年の声が、炎のホールに響き渡ったのは。




