6.過去とおっさん―1
天高く振り上げた刃――その先端がキラリと日光を反射すると、グルゥは容赦なく鍬を振り下ろした。
抉れる大地。
積み上がる土。
立派な畝が出来たことに満足し、グルゥは首から提げたタオルで汗を拭いた。
「おや、朝から精が出ますなぁ、領主様」
「『イルスフィア』の赤茶けた土には、含まれている栄養が少ないのです。きちんと手入れをしてやらないと、立派な作物は出来ないのですよ」
散歩中の老人は、数少ない領民の一人だった。
そう、ここはグルゥが手に入れた領地。
辺境の地を開墾し、どうにか作物や綺麗な水が手に入るようにし、やっと思いで作り上げたグルゥの国なのだ。
領民はみな穏やかな性格で、同じく優しい心を持つグルゥは、大きな富や豊かな資源こそ持たないものの、民から慕われる良き領主となっていた。
「どわあああっ!?」
が、突然のグルゥの絶叫に老人はすっ転びそうになってしまう。
グルゥの首筋には、冷たいものが当てられていた。
「お、驚かせるなよ、ムジカ……」
「うふふ、本当にでかい図体の割に、気の小さな人ね。はい、差し入れよ」
差し出された氷入りの茶を、グルゥはぷんすかと怒りながら一息で飲み干してしまった。
彼女の名前はムジカ。
麗しい黒髪と、美しい螺旋状の黒角が印象的な、グルゥの妻である。
こんな穏やかな日々が、いつまでも、いつまでも続くと信じていた。
しかしそんなグルゥの思いは――ある日、一瞬で崩れ去ることになる。




