1.孤児とおっさん―4
「……………………キット」
ふて腐れ気味に顔を背けながら、子供はそう自分の名を名乗った。
「ほ、ほら、もう大丈夫だよ。ごめんね、私も、あまり力の加減が出来ないから」
「いいよ、別に。……こうして、治療までしてくれたんだし」
キットはそう言って、グルゥにテーピングしてもらった自分の右手を、不思議そうな目で眺めている。
――この状況になるまで、グルゥは相当の労力を要していた。
まず恐怖で暴れまわるキットの体を押さえつけ、ごめん、驚かせてごめんとひたすらに謝る。
しかも手を掴んだ時の勢いで、キットの右の手首は青く腫れていて、どうやら捻挫をさせてしまったようだった。
こういう時、細かい力の加減が出来ない自分の体が恨めしいと、グルゥはつくづく思う。
そのまま放っておくわけにもいかず、何とか力で押さえつけ、“あ、自分はこのまま殺されるんだ……”とキットが生を諦め抵抗しなくなったところで、どうにか治療を始め、そこでようやくキットは、グルゥに害意が無いことに気が付いたようだ。
キットはグルゥの隣に座り込んだまま、ずっと不機嫌そうに黙り込んでいた。
その姿に、グルゥはなんと声を掛けていいのか分からず、気まずさから内心あわあわと慌てふためいている。
「変なヤツだな、おっさん」
「え、えヒッ?」
急に声を掛けられたため、グルゥは驚いて上擦った妙な声を出してしまった。
気持ち悪がられたかと思い、グルゥは顔を真っ赤にして、自分の口を両手で塞ぐ。
「……プッ」
だが返ってきたのは、おかしさを堪えられず、腹を抱えて笑うキットの年相応の無邪気な笑顔だった。