51.続・惨劇とおっさん―8
「ぉじ……様……?」
ミルププはグルゥが助けに来てくれたのだと思ったが、すぐにそれとは様相が異なることに気付いた。
その男は大剣を片手で持ち、金属が編みこまれた鎧を着こなしている。
真っ直ぐに伸びた黒角も折れていないし、シルエットからしてグルゥとは違っていた。
「まさ……か……!?」
それは幾重にも重なった薄皮を、一枚一枚丁寧に剥がしていくように。
遥か幼い頃の記憶が、ゆっくりと呼び起こされて、ミルププは徐々にその男の正体に確信を持ち始めていた。
銀髪を短く刈り上げたその男は、少しお調子者のようなおどけた笑みを浮かべて、振り返って二人に声を掛ける。
「悪い、遅くなったな。ま……ヒーローは遅れて登場するもんだって、相場は決まってるもんだ」
男はもう若くはない、三十過ぎの年齢に見えるが、その爽やかな笑顔は他人から好かれる人懐っこさがあった。
優しい笑顔――心からの安心を与えてくれる笑顔に、ミルププの疑念は確認に変わる。
「ぉとぅさん……? お父さんっ!?」
「随分と長い間待たせたな、ミルププ。お前を迎えに来るまで……こんなに時間がかかっちまった」
男の名はヴァングリフ・ヌエツト・ガグギリム。
国を追放された今は、ただヴァングリフの名前だけが残っている。
デルガドスの実の息子であり、ミルププの実の父でもある、かつてはヌエツトの王子だった男だ。




