51.続・惨劇とおっさん―7
「じぃ……じ……」
目の前が灼熱色に染まる中、ミルププは溜め込んでいた涙を流した。
(やはり私は、誰からも愛されてなんかいなかった)
国を飛び出した父からは捨てられ、祖父からは犠牲になることを強いられている。
(私は誰を信じれば良かったの)
迫り来る死の時の中、ミルププの脳裏に浮かんだのはグルゥの顔だ。
(せめて、最後に会いたかった……おじ様……っ!!)
堰を切ったように涙が溢れ出したが、それすらも炎が一瞬で乾かしていく。
「ダメ、この子は――」
(え?)
とっさに、自分が盾になるようにミルププを抱き締めたニフラ。
混乱の中、ミルププは妙に自分が冷静になっていることに気が付いた。
(じぃじの炎は『サタン』でも耐えられない。だからこそ、じぃじは武力で王になれた。ダメだよニフラ、このままじゃ私もあなたも――)
それはベルゼブブの持つ明晰な頭脳が、死を間際にしてとっさに弾き出した計算だった。
つまり、このままでは二人とも炎に焼かれるという――死の検算だ。
「いやああああああああああああああああああああああああああっ!!」
頭上を超えて飛んでいった炎に、ニフラは悲鳴をあげながらとっさに姿勢を低くした。
その炎は、二人の上を飛び越して、“デルガドスの炎”にぶつかっていく。
二つの炎はその勢いを相殺し合い、炎はホールへと飛び火した。
「ぇ……なに……が……?」
燃え盛る炎の中、ミルププが目の当たりにしたのは、屈強な『サタン』の男の背中だ。




