51.続・惨劇とおっさん―5
遠巻きに見ていたイルスウォードの男達が、それを見てどよめいた。
「早く、ヌエツトの王を押さえ込んでください! 放っておいてはまずい」
ニフラの指示を受けて何人かがデルガドスに駆け寄ったが、次の瞬間である。
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッ!!」
ホール全体を揺るがすようなデルガドスの雄叫びと共に、男達は紙屑のように吹き飛ばされていった。
「ぇ、なに……っ!? ばくはつ……っ!!」
――否、それは爆発ではない。
ミルププがそう感じてしまうほどの衝撃波が、デルガドスを中心に巻き起こったのである。
「やはり……化け物じみた力の持ち主ですね……あなたは……っ!」
キッとデルガドスを見据えたニフラは、憎々しげな言葉を“白い怪物”へとぶつけた。
筋骨隆々とした体躯に、全身を覆う白い剛毛。
見上げるような大きな体は、優に三メートルを超え天井近くまで届いている。
本来であれば『憤怒』の感情によって“猛牛”を思わせるような変貌を遂げる『サタン』だが、その王に“白鯨”という異名がついた理由。
それがこの、『サタン』の中でもとりわけ巨大である、暴力的なまでの存在感を放つ変貌後の姿だったのである。
「フン。毒を仕込むなど、他愛もないことをしおって……。この程度のものなど、我が血液によって煮沸消毒してやるわッッッ」
「違う。私の毒は、『サタン』に飲ませることを前提に熱に強くなっています。そんな強がりも一時的にしか持たないはず」
「なら試してみようか……我が鍛え上げたこの肉体が、どこまで持つかをなッッッ!!」
デルガドスが動く度に、ホール中の空気が振動し物が揺れる。
イルスウォードの男達が、あまりの迫力に棒立ちになって動けない中、ニフラは一歩も引かずにデルガドスに対峙した。




