50.惨劇とおっさん―8
「あなた……姫である私にこんなことをして、後でどうなるか分かっているんですか」
精一杯の虚勢を張るサリエラだが、リーヴスの反応は冷静だ。
「姫? それはあなたが、ちゃんと鉄の籠の中に入っていればの話ですよ。脱走したあなたのことを、王がどう思っているか……言わなくても分かりますよね?」
リーヴスの言葉にサリエラは何も言い返すことが出来ず、ただその場に座り込むだけだった。
「まあ、他ならぬあなたの頼みですから、協力はしてあげますよ。ただしこの貸しはきっちり返してもらいます……いいですね? サリーメイア姫」
放心状態のサリエラは、その言葉に力無く頷いた。
これ以上抵抗してもリーヴスにやり込められるだけだと、思い知ったのだ。
「おや、“きっちり”とは……姫のお兄様のようなことを言ってしまいましたね」
冷笑を浮かべながら、リーヴスは摘んだイモムシを潰そうとする。
が、指に力を加えた瞬間に、その表情が険しくなった。
「へぇ。この虫をあなたに取り付けた術者は、なかなかやりますね。これほど高度な呪いの罠を、虫の中に仕込んでいるとは」
優秀な魔術士同士、何か感ずるところがあったのだろう。
感嘆の表情を浮かべたリーヴスは、したり顔で頷いた。
「少し……興味が湧いてきましたよ。姫がどのような魔人と出会ってきたのか。なかなか、楽しくなりそうですね」
リーヴスが何を考えているのか、サリエラにはさっぱり理解が出来ない。
だがそれでも、単純に協力をしてくれることは絶対に無いだろうと、その事実だけははっきりと理解出来ていた。




